チェンバロ見学

チェンバロを持っているお友達のお宅を訪問して来ました。この方はピアニストですが、もともと古楽に興味はあったところ縁あって中古のチェンバロを入手し、研鑽を積んで今はチェンバロを使ったコンサートを開いたりもしています。

チェンバロの参考写真(https://www.photo-ac.com/より)


まずはチェンバロの仕組みについて説明してもらいました。ピアノは鍵盤の奥にフェルトのハンマーがついていて、鍵盤を押すとそれが弦を叩いて音を出します。弾いた時に出てくるのは、余韻のあるポーン、という響きです。一方チェンバロはハンマーでなく爪がついていて、それが弦を引っ掻くようになっているので、ピン、という短い音になります。


チェンバロの鍵盤は上下二段になっていて、多くのものは黒鍵と白鍵がピアノと逆です。二段の鍵盤は音の高さは同じですが、若干音色が違い、また両端についているストップを入れるともう1オクターブ上の音も出せたりするので、それをどう組み合わせて使うかで微妙に音の大きさやニュアンスを変えることができます。


また、チェンバロの音は狂いやすいので、自分で弦を締めて調律します。我々も緊張しながら調律を体験させてもらいました。

チェンバロはピアノの前身ともいえる鍵盤楽器で、より大きな表現ができるピアノに取って代わられる18世紀半ばまで、広く使用されていました。


バッハをはじめとするバロック音楽は、チェンバロが使用されていた時代に生まれ、西洋のクラシック音楽の礎となったものであり、音楽を勉強する者には避けては通れない道です。学生時代はレッスンや試験で必ず弾かされ、音楽史や楽曲分析の授業でも常に取り扱われるテーマでした。さまざまなコンクールでも課題に含められています。


しかし現代の我々がバロック音楽を弾くときは、ほとんどがピアノによっての演奏になります。世に出回っているチェンバロの数が圧倒的に少ないこともあり、これだけバロック音楽を勉強しながら実際にチェンバロに触れることのできる機会は実はごく僅かです。


この日、実際にチェンバロを弾かせて頂きました。かくいう私もチェンバロを弾くのは初めてです。


自分が普段ピアノでバッハやクープランを弾くときのような弾き方で弾いてみますが、タッチの感覚も違いますし鍵盤の幅が少し狭いこともあり、なんともおぼつかない演奏になってしまいます。しかしそんな演奏でも、バロック音楽をバロック時代の楽器で演奏するというのはなんと気持ちの良いことでしょう!


今までピアノでバロック時代の曲を弾く時は、チェンバロのスタイルや響きになるべく近くなるように、ノンレガート気味で、指はしっかり上下させて指さばき良く弾く…ということを心がけていましたが、この持ち主の友人からは「チェンバロを弾く時は、指はあまり動かさず、鍵盤に長く置いておくのが良い」とアドヴァイスされました。確かに!楽器の特性が違うのですから、ピアノでの弾き方を流用しても上手くいくわけがありません。


アーティキュレーションも、普段自分が思っていたようなフレーズの取り方とはだいぶ違い、新鮮な驚きがいっぱいでした。


友人が、ラモーの曲をチェンバロとピアノで弾き比べてくれました。彼女がピアノで演奏するラモーはとてもロマンティックでドラマティック。「あなたの演奏は古楽じゃない、とよく言われちゃうんだけど…でも、私はこういう音楽だったんじゃないかな、と思っているんです」と言っていました。とても魅力的な演奏でした。


ラモーが現代に生きていてピアノで自分の曲を弾くことになったら、どんな演奏をするだろう?


その曲が生まれた時代のオリジナルのスタイルを尊重すること、その曲が純粋に音楽として持っているものを表現すること。どちらも大事ですし正解はありません。それをどのようにバランスを取って演奏するのか、演奏者には永遠の課題のように思われます。